2013年11月11日月曜日

『学校に行きたい』



少女は病気の彼をうらやましく思っていました。理由はすぐに学校を早退できるからです。でも、彼の連絡帳を何気なく覘いたその時、少女は己の浅はかさを知ったのです。


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私が小学校5年生のとき、寝たきりで滅多に学校に来なかった男の子と同じクラスになりました。

その子、たまに学校に来たと思ったらすぐに早退するし、最初は



「あの子だけズルイなぁ・・・。」



なんて思ってました。

私の家、その子の家から結構近かったから私が連絡帳を届ける事になりました。



男の子のお母さんから連絡帳を貰って、先生に届けて、またお母さんに渡して・・・。

それの繰り返し。



「なんで私がこんな面倒臭い事しなくちゃいけないんだ!」

って、一人でブーたれてたのを良く覚えています。



そんなある日、私何となくその子の連絡帳の中を覗いてみました。

ただの興味本位だったんだけど。

連絡帳にはその男の子のものらしい豪快な字で、ページ一杯にこう綴られてました。



『今日もずっと家で寝てた。早く学校に行きたい。今日は窓際から男共の笑い声が聞こえてきた。学校に行けば、俺も輪に入れるのかな・・・。』



ショックでした。

学校行かないのって楽な事だと思ってたから。

ハンデがある分、ひいき目にされて羨ましいって思ってたから。







でも彼の文章には学校に行けない事の辛さ、普通にみんなと遊びたいって気持ちに溢れてて、なんだか私、普通に毎日学校に通ってんのが申し訳なくなって。

だから、連絡帳にこっそり書き込みました。



「いつでも、待ってるよ。体が良くなったら遊ぼうね!」

って。



でも次の日の朝、その子の家に行ったらその子のお母さんに

「もう、連絡帳は届けなくていいの。」

って言われました。

あまりにも突然でした。

私はその頃子供で、頭もあまり良くなかったのだけれど、その子のお母さんの言ってる意味は伝わってきました。



「この子は天国に行ったんだ。もう一緒に遊ぶ事は出来ないんだ・・・。」



そんな事考えたら涙が溢れて、止まらなくって・・・。

ずうっと泣き続けてた私に、その子のお母さんは連絡帳をくれました。

せめてあなただけは、学校にも行けなかったあの子を忘れないで欲しいって。



そんな私ももうすぐ30になろうとしています。

あの時の連絡帳は、引き出し下段の奥底にずっとしまったきりです。

就職したり、結婚したり、子供が出来たり・・・。

今まで、本当に色んな事がありました。

時には泣きたい事、辛い事の連続で、いっそ自殺しちゃおうかなんて思った事もありました。

けど、そんな時はいつも引き出しを開けて、男の子の連絡帳を開きます。

そして、彼が亡くなる直前に書かれた文章を読み返します。



『ありがとう、いつかきっと、遊ぼうね。』



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